視覚情報デザインの観察方法、対象への愛情と敬意

デザインを教える立場から、チラシの視覚情報デザイン面の課題について解説してみます。
他の記事に書いていましたが長くなりすぎたので、新しい記事を立てて移動し、わずかな修正を加えましたが、先に元の記事を読んだ方が以下に記すことを理解しやすいと思います。)

*

定期演奏会のチラシは、ここ数年は同じ構成がとられていて、文字内容を除いた主たる変更点は、演奏曲目の行数に応じた写真の縦サイズの変更です。今年の写真は残念ながら一人の団員くんが写らない写真が選ばれています。その理由はどんなものだったのでしょう。というのは、2Fからのアングルを使えば、団員くんが指揮者に隠れることはなかったからです。

そこで、2Fからのアングルが使われなかった理由を、視覚情報デザインの視点から解読しましょう。キーワードは、構図です。

*

今年は去年と比べると演奏曲数が多いので、チラシの中で、曲目記載スペースが縦方向に広がっています。それに伴って、写真掲載スペースを縦方向に縮める必要が生じます。ところが、全員が隠れずに写っている2Fからのアングルではどうしても縦方向が大きくなります。だから2Fからの写真を使おうと考えたら、写真の差し替えだけでは終わらないことがわかります。一方、1Fだったら何もしなくてもほどよく収まります。

2016_1123_141619-001.JPG 2016_1123_122611-001.JPG

上の参考画像は、左が1Fのアングル、右が2Fのアングルで、指揮者の全身と団員全員が横幅いっぱいに入るようにトリミングし、幅を同じサイズにして並べたのもです(※)。上の状態で、2Fの縦寸法は、1Fのほぼ25%増しです。これらの写真の横幅を18cmと仮定すると、縦方向の相違は実寸で2cmほどです。2cmは1円玉の直径です。現在のレイアウトにおいては、他の何かにかぶらないように1円玉を横に並べる隙間はどこにもありません。つまり、2Fからの写真は入らないのです。

(※)2Fの写真、最上段の人物が途中で切れています。手持ちの中にOB参加ステージのリハーサル写真しかなかったので、団員たちだけにするためにクロップしました。

このようなとき、デザイナーは以下の判断を求められます。

<レイアウトを旧来とは変える方向に行く(ゼロに近いところから練り直す)ことと、旧来のレイアウトのままにして、1人の団員くんに泣いてもらうことと、どちらの方向性が望ましいか?>

気をつけてください。あくまでも「桃太郎少年合唱団にとっての望ましさ」であって「実作業者の金儲けにとっての望ましさ」ではありません。

*

さて、2Fからのアングルは、写真全面積中でステージ面積の割合が大きいことが一目瞭然です。また1Fの正面からのアングルより遠近感が弱くなるので、迫力に欠けます。だから「全員が写っているからこれがいい!」と手放しで喜んで使えるわけではありません。レイアウトは難しくなります

2Fからのアングルでは、指揮者両サイドにステージ床が広く見えますが、まったく必要がない情報(視覚要素)です。そして、全体の中で色の濃い指揮者と団員の姿が逆ピラミッドを作り出すので、不安定に見えます。この不安定さは、写真を超えてチラシ全体に及ぶ恐れがあります。

一般的な美術上の知識を念のために記すと、たとえば、聖母子像やお釈迦様の像は絵画でも彫刻でもピラミッド型の構図です。ところが、ガーゴイル魔法使いのように、人々に何かしらの不安感を覚えさせたい対象については、羽や腕やマントを広げて逆ピラミッド型に見せる場合が多いです。逆ピラミッド型の構図がもたらすのは不安感というネガティブな印象だけではありません。サモトラケのニケでは躍動感や飛翔感が表現されています。千手観音は、その性質から「穏やかな動き」とでも言うべきものが要求されるので、ピラミッドと逆ピラミットをうまく重ねた構図がとられるのでしょう。

さて、不安感、不安定感が定期演奏会のチラシに適切であるかと言われたら、誰でもNO!と答えるでしょう。定期演奏会の全体テーマ次第では、あえて逆ピラミッド型レイアウトを採用し、躍動感や飛翔感を伝える必要があるかもしれませんが、上の写真には躍動感も飛翔感もありません。

*

要するに、いずれの写真にも、レイアウト材料としての欠陥があったわけだから、問題は「適切な写真がない状況」であると考えるのが適切でしょう。

*

このような「適切な写真がない」という失敗経験を大事にすれば、今後は広報用に使うことを意識して写真を撮りためる方向に進めるのでしょう。「今は今、昔は関係ない」なんて嘯きながらサボっていると、同じ失敗を何度も繰り返します。

そして、忘れないでほしいことは、かつてはプロがプロ用の機材やソフトを使わないとできなかったことが、今では素人が、安価な機材を使って、安価なソフトを短時間学べば簡単にできるようになっているという事実です。

また、一部の技術に関しては「今は今、昔は関係ない」と言ってもかまいません。とくに現代人は、昔のことは関係ないとバッサリ切り捨てる姿勢をもてなければ大気汚染の拡大と化石燃料の枯渇で人類は滅亡するでしょう。

*

もうひとつ大切なのは、団員のプライバシー保護について真剣に考えられるのは保護者だけだということです。

なぜなら、保護者は我が子の一生を守らなければならないからです。

メンバー(桃太郎少年合唱団の場合は団員)が新陳代謝する組織が、ある特定のメンバーを一生にわたって守れないのは自明です。このことに気づけたら、「今」という時代であるからこそ、保護者会に広報に関する意見を取りまとめて上部組織に伝え、場合によっては戦う役割の人が必要であったことが分かるでしょう。

 

視覚情報デザイン面の課題いろいろ

このチラシは視覚情報デザインにおける配慮についての良い教材なので、同等のものを大学1年生くんが課題制作物として提出したときに指摘するであろうポイントを以下に記します。

チラシの写真についてさらに言えば;

  • 写真のこの位置に、このような大きさと色でキャプションを入れる意味はありません。なぜここに入ったかというと、右下にアカペラグループの写真を入れてしまったために、キャプションに適した位置であるダークな観客席の部分に白抜きで小さく入れられなくなったからです。そして、ここにアカペラグループの写真が入った理由は、日程の11と23を強調するためにフォントサイズを大きくしたことで、写真とその他の文字の間に隙間ができていたからです。隙間ができたことは問題ありませんが、その隙間の意味を考える必要があります。役に立つ隙間もあれば、役に立たない隙間もあります。それ以前に、アカペラグループの写真がなくても広報として成り立ちます。アカペラグループの写真を入れることの是非は、写真の必要性の合理的な説明ができるかどうか次第で決まります。
  • 「第55回定期演奏会」の直下に、写真のキャプションとしては大きな文字で「2016年第54回」と入ったために、上部だけ見た人が、2016年に終わった演奏会だと誤解する恐れがあります。また下の日程では「平成29年」という元号のみを使っているので、上は西暦、下は元号と表記が不統一で、情報の受け手が迷うかもしれません(少なくとも頭の中で元号と西暦を換算するためのコンマ数秒の無駄な時間を必要とします)。それぞれで異なる表記を使う意味はありません。このチラシは行政機関の資料ではないから、西暦で揃えるのが良かったでしょう。
  • 右端の団員くんに、チラシ全体に回されたモール飾りが刺さろうとしています。右端の団員くんとモールの間隔が、左の団員くんとモールの間隔より狭いことと、両端の団員君の歌唱姿勢が異なるので、「突き刺さる感」が余計に際立っています。
  • 左側のモール飾りの尖り部の先端が、ステージ背景の黒い縦線(背後の壁の重なり部にできた陰)と一致します。この黒線が縦線がモール飾りの一部に見え、本来は意味のない黒線が、視覚的に強調され、印象を損ねる結果になっています。
  • 下のアカペラグループの写真では、背の高い2人の団員くんの頭が、上の写真の団員の足で踏みつけられそうになっていて痛々しいです。頭と靴の距離が近すぎます。
  • 同じくアカペラグループの写真の左から3番めの団員くんの頭の上に、床のテクスチャが際立ってしまって、白っぽい三角形ができています。実物を見れば、確かにこの部分だけ白っぽいのですが、2枚の写真の重なり具合から、この三角形が上の写真の半ズボン団員くんの足元にあって、意味のない方向性を表現しています。この三角形も消去可能です。
  • 右端の団員くんの足の長さが左右で異なります。右足はひな壇上、左足はステージ面まで伸びています。団員君の足とピアノの足と合体して見えてしまっているわけです。レタッチでは直らないことはないですが、それほど簡単ではありません。写真選択のミスだと捉えるのが適切です。
  • 下段左から3番目の団員くんはホウキかモップを持っているみたいです(=マイクスタンドの位置関係がよろしくないということ)。これは簡単に消去できます。
  • ステージ手前のエッジ部分の黒ずんで見える部分は金属ですが、光線の加減で汚れに見えます。レタッチしてきれいにすべきでした。この黒ずみは、指揮者下部はほとんど真っ黒で、アカペラグループの写真左端のピアノという黒い塊と一体化して、紙面の中で巨大な黒い塊として目に入ります。これが全体の中で違和感を醸し出しています。黒服の指揮者を際立たせるためには、これはいずれも消去すべきでしょう。(ピアノをきれいに消去するのは手間がかかるから、やはり写真の選択ミスです。繰り返しますが、ストックがないのが問題です。)
  • 客席、指揮者の左斜め下の白っぽい部分と、写真左下の座席番号札の白い部分も塗っておくべきでしょう。小さな点であっても、黒っぽい中にあるととても目立ちます。
  • アカペラグループの写真の左下の黒ずみも同様です。

写真以外のことでは;

  • 日程とその下の会場と入場料部分の落ち着きが悪い原因のひとつは、それぞれの左右の余白の幅が異なる点です。日付は右の余白が左より狭く、なおかつ上に重い写真が載るので、この部分に時計回りに回転する視覚的な動きが発生しています(シーソーの一方に重い人が乗っかった状態です)。
  • 会場と入場料を区切る空白と、一般料金と子供料金を仕切る「/」の幅がほぼ同一なので、情報の切れ目が曖昧になっています。
  • 会場の住所を、その上の「岡山市民文化ホール」という文字と比べると、住所の幅が狭く、かつ、両者共通の「岡」の字の左の縦線(一画目)の位置が、住所の方が左に出ているので、この部分だけ見ても安定が崩れています。
  • 演奏プログラムの「ステージ」という文字の前にローマ数字があります。使われたフォントのカタカナとローマ数字の高さが異なるようで、ローマ数字が僅かに背が低く、なおかつ上端がそろっているために、ローマ数字が少し浮いて不安定になっています。異なるフォントを使い、ポイント数を微妙に変えて文字の高さを揃えるか、あるいは数字の方を少し高くしてやると、数字の印象が高まります。
  • アカペラグループの写真をこの位置に置くのだったら、演奏プログラムの文字列をもっと右に寄せて(宮﨑駿云々の右端がモールから10~15mmくらいにくる程度の位置)、アカペラグループの写真の重さを、プログラムの文字列がつくる柱によって支えてやれば安定したでしょう。また、それによって、会場と入場料を行を分けて書き、これらと演奏プログラムをコラムとして左右に振り分ければ、情報が切り分けられるので、閲覧者への配慮として好ましいかったでしょう。

上記、わずか2分程度での観察結果です。大学1年生前期のWordのスキルを問う課題であれば合格ですが、2年生のビジュアルデザインの課題であれば、上記のようにボロクソに言われて再提出は必至です。

授業では学生一人あたり4,5分の時間しかとれないので、2,3分で問題を見つけて、修正の方向性まで含めて説明してやる必要があります。これは30年近くの間、毎年、数百、数千の課題提出物を観察しているうちに身についた技術なので、普通の素人さんには2,3分では無理だと思います。だから、素人さんは気づかなくても気にしないでください。もちろん、デザイナーは気づかないといけません。

素人さんの中には「あら捜しばかりする嫌な奴だ」と思った人もいるでしょう。でも、人様からお金を頂戴してデザインする者であれば、上記程度のことは納品前に解消しておくのが普通です。

*

また、視覚情報デザインにかぎらず、すべてのデザインにおいて大切なのは、表現対象やユーザーへの愛情や敬意です。それが感じられないデザインはペケです。たとえば、柳宗理の鍋の、見た目と使い勝手がもたらす調理の心地よさ、そういう感覚を得られるかどうかが大切です。

*

さて、上のようなことを書いたら、やたら複雑で難しい作業をやらなければならないと感じる人もいるでしょうが、このチラシくらいであれば、高度な写真修正以外はノートパソコンとWordで可能です。

知らない人が多いですが、Wordの挿入メニューにあるテキストボックスを使えば文字を自在に配置できます(PowerPointの文字はすべてテキストボックスなので、PowerPointユーザーはすぐ理解できるはず)。モール飾りは無料素材で手に入ると思います(※)。 また、写真のちょっとした補正は、Word 2010か2013以降で可能になっていますが、汚れ取りはWordでは無理です。観客席部分については、Wordで、エッジをぼかした真っ黒か濃いグレーの四角形を被せてやればなんとかなります。またWord 2016では背景を抜く(消去する)こともできたはずです。写真だけでなく、MBCマークの絵柄だけを抜き出すことも可能です。

(プロ用のソフトを使っているから自分はプロだと思っている自称プロもいるので、みなさん気をつけてください。)

(※)入場料を取る催しのチラシだから商業目的です。だから素材の使用許諾条件の熟読が必要です。印刷物には使えない場合はけっこう多いです。それ以前に、写真の中の主役を殺してまでモール飾りを入れた合理的で積極的な根拠があるでしょうか? 一般的にモール飾りを使ってはいけないと言いたいのではありません。美術史をたどれば、モールがあるからこそのデザインもたくさんあります。肝要なのはモールが生きているかどうかです。このチラシの場合は文字と写真を十分な思慮なしにレイアウトしたために息が詰まるような見た目になり、それを力尽くで抑えこむためにやむをえずモールを巡らせたか、あるいは、あるいはモール有りきを前提として他のものを中にギュウギュウと押し込めちゃったのか、たぶんどちらかでしょう。いずれにしても消極的な理由でモールが採用されたように見えます。また、モールを取り去っても、情報伝達の正確度には全く差がありません。

*

せっかくなので、学生さんが目の前にいるつもりで、もっと根本的に大切なことを言ってみますね。(^_^:)

*

手渡しで配布されるチラシもあれば、パンフレット棚に入れられて、誰かに気づいてもらうのをひっそりと待っているチラシもあります。三つ折りか四つ折りにして郵送されるチラシもあります。

一般的なパンフレット棚の場合、見えるのはチラシ上部1/5~1/3くらいです。上部を見ただけで必要な情報が分かるようにしようと考えるのが当然でしょう。二つ折り、四つ折りも同様、開かなくても分かるようにしようと、普通は考えるでしょう。

そのような目でいくつかのコンサート会場で観察したことがありますが、上手にレイアウトしている例がいくつもありました。チラシでなくても、書店やコンビニの雑誌を思い浮かべれば、「見えること」の重要性が分かるでしょう。

桃太郎少年合唱団、演奏会、日時、場所、これらの情報がパンフレット棚をちらっと見ただけで目に入るかどうか、、、、他の記事に示したチラシ案のいくつかは、それを意識してやってみた結果です。これは簡単ではありませんでした。なぜなら背景で使った写真を撮影した時には、チラシ背景で使用することを想定していなかったからです。背景写真のストックが必要です。

一方、桃太郎少年合唱団の近年のレイアウトであれば、写真と日時場所&入場料を入れ替えれば簡単に達成できそうです。文字と写真の羅列にモールを巡らせただけの単純極まるレイアウトだから、入れ替えても視覚的に情報を伝える媒体としての不利益は発生しません。むしろ、その方がチラシの上部から下部に向かうストーリーができるので、良いデザインになるでしょう。下手なら下手なりにやるべきことが見つかるわけです。

よく分からないという人は、チラシを切り貼りして、写真と日時場所&入場料を上下入れ替えたものを作って、自分の目と意識の動きを観察しながら、得られた情報を順次メモしてください。チラシを見終わった時(そしてメモが終わった時)、なめらかなストーリーができているはずです。

また、演奏プログラムの文字色とサイズを変えたら、写真はもっと下でもかまいません。その場合、アカペラグループの写真が、現状の取って付けたような姿ではないレイアウトが可能になると思います。むしろその方がバランスが取れただろうと思います。下手なら下手なりに方法を見つけられるわけです。

*

修正するには、手間と時間がかかるし、面倒くさいし、仕事だったら赤字だし、、、ということになります。こういうことを喜々としてやるのは、それによって点数が上がる学生さんだけでしょう。

業務として委託された場合、写真に問題がたくさんあり手間がかかる修正が必要だとか、よい写真がないのでどこかに撮影に出向くとか、あるいは、提供された情報に疑問があるので自分で調べて確認するとか、そういうことで作業時間がどんどん増えていきます。

たとえばホール名が正式名称ではなく通称になっているのはプログラムにおいても同様でしたが、上述した元号と西暦の中途半端な混在同様、行政の出版物だったら真っ先にダメ出しされるポイントです。提供された情報の吟味は、視覚情報デザイン(とくに編集デザイン)において重要です。(業者側の立場で言えば、そういうのも料金の一部です。)

 

広告